福岡県の北部に位置し、九州最大の工業地帯として発展してきた北九州市。1901 年の官営八幡製鐵所の操業開始以来、鉄鋼業を中心とした「ものづくりのまち」として日本の高度経済成長を支えてきた。同市は最先端の事業にも積極的に取り組んできており、2016 年(平成 28 年)には国家戦略特区に指定され、先端医療・介護ロボットの全国初となる実証実験や再生可能エネルギー分野での規制緩和を実施してきた。
また、アジアに近接する地理的優位性を活かす「陸・海・空」物流インフラを強化、環境時代を先取りしたエコタウン事業を開始。さらには、先進技術をもつ外資系企業の積極的な誘致など、産業の高付加価値化と経済成長の好循環を狙った多角的な改革を推進してきた。
こうした特区制度をフル活用しながら、少子高齢化が進む地方都市の生産性向上と新規産業創出を図る北九州市は、「稼げるまち」への本格的な転換を進めている。その重要な施策の一つとして、中小企業の DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた独自の取り組みを展開している。
それが、2020 年 12 月に設立された「北九州市DX推進プラットフォーム」と 2022 年 4 月に開設された「北九州市ロボット・DX推進センター」だ。この取り組みは、中小企業の生産性向上と事業変革を支援する中核として注目を集め、2022 年度の「夏のDigi田甲子園」では内閣総理大臣賞(実装部門)を受賞するなど、全国的にも高い評価を得ている。
そこで、DXを通じて「稼げるまち」を目指す北九州市の取り組みの最前線について、北九州市 産業経済局 地域経済振興部 中小企業振興課工業・生産性向上担当係 主任の畑中翔太氏にオンラインで話を伺った。
企業と支援者を結ぶハブとしての「北九州市DX推進プラットフォーム」
——「北九州市DX推進プラットフォーム」が生まれた背景と、その目的について教えてください。
畑中 「北九州市 DX 推進プラットフォーム」は 2020 年(令和 2 年)12 月に設立されました。当時は新型コロナウイルスの感染症が流行し、事業所を取り巻く環境が急激に変化していた時期でした。中小企業が事業環境の変化の中で生き残り、より力強く発展するためには、北九州市としてもDXの推進が必要不可欠と考えました。こうした背景から企業活動を促進するための基盤として立ち上げたのがこのプラットフォームです。窓口を「公益財団法人 北九州産業学術推進機構(FAIS:フェイス)」が担当しています。
このプラットフォームの最大の目的は、DXを進めたい市内の中小企業と、それを支援できる企業・団体を全国から集め、支援政策で両者の間を結びつけることです。いわば、DX推進に向けた地域のエコシステムを構築する役割を果たしています。
——企業の方々はどのような形でDX推進プラットフォームに参加されたのでしょうか。
畑中 北九州市は以前からロボット産業の推進を積極的に進めており、さまざまな中小企業・団体様との関係をすでに構築していました。そこで、元々つながりが強い企業様からお声がけを始め、加盟いただき、そこから徐々に広げていきました。
——ロボット産業に注力してきた背景には、どのような要因があるのでしょうか。
畑中 北九州市は「ものづくりのまち」と称されることが多く、製造業の集積があります。特に産業用ロボットの世界のトップメーカーである安川電機の本社があり、ロボット研究開発を精力的に行っている九州工業大学も立地しています。こうした産業・学術基盤を活かして、以前からロボット産業の振興を市の重点施策として取り組んできた歴史があります。
——2022 年(令和 4 年)4 月に「北九州市 ロボット・DX推進センター」が開設されましたが、これは「北九州市DX推進プラットフォーム」とはどのような関係にあるのでしょうか。
畑中 「ロボット・DX推進センター」の設立は別の動きから始まっています。北九州市は 2013 年(平成 25 年)から、「産業用ロボット導入支援センター」を北九州学術研究都市内に開設しており、FAISとともにロボットの導入支援などを続けてきました。
その中で、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」があり、2018 年(平成 30 年)にロボット分野で採択されたことが転機となりました。この事業では、北九州市とFAIS、安川電機と九州工業大学が連携し、産業用ロボットをテーマとした研究開発や大学改革、導入支援などを通じて地域の生産性向上を実現するプロジェクトを開始しました。
このプロジェクトの中で、地域の生産性向上を集中的に支援するセンターを計画していたところ、2020 年(令和 2 年)ごろから DX の機運が北九州で高まってきました。ロボット導入も、中小企業の労働生産性向上や事業変革を目指す点で共通していたことから、両者を融合させた「ロボット・DX推進センター」という形で 2022 年(令和 4 年)4 月に設立されました。運営は FAIS が担い、生産性向上に関してワンストップで対応できる拠点として機能しています。
中小企業が直面する4つの壁 ―人・物・金・情報の不足
――DX推進において、中小企業が共通して抱える課題はどのようなものなのでしょうか。
畑中 大きく分けると 4 つあると考えています。1 つ目は人材不足です。「社内にロボットを扱える人材がいない」「DX による生産性向上に取り組める人材がいない」「専門的な知見がある人材がいない」など、適切な人材の不足は大きな課題です。
2 つ目は、変革の意識です。経営者や企業のこの問題に対する認識には、まだ十分な浸透が見られないところがあり、危機意識をなかなか受け止めていないように思われます。また、生産性向上に取り組みたいと思っても、「どうやって取り組めばいいのか」「どういった事例があるのか」「どこに相談したらいいのかわからない」といった声もよく聞きます。
3 つ目は、資金の問題です。ロボット導入や DX に関するさまざまな取り組みには初期投資が必要ですが、中小企業ではそのための予算確保が難しいという現実があります。
最後に、企業が研究機関・大学・システムインテグレーターなどのサポート企業と接点を持つ機会が少ないという点です。「ロボット・DX推進センター」を開設した主要な目的の一つにはこの課題を解決することでもありました。
これら 4 つの課題をまとめると、中小企業においては「人・物・金・情報」のすべてが不足している状況といえます。
——人材不足について、昨年の「西日本DX推進フェア」での中小企業の代表の方の講演で、DX に取り組む前の課題として「ハローワークに出しても人が集まらない」というものがありました。企業の方からお話を聞く中で、人材不足という問題は大きいとお感じになりますか?
畑中 はい、ご相談いただくなかで大きな問題だと感じています。しかし、「デジタル人材がいないから DX が進まない」というご相談については、本当にそうなのかと思うところがあります。確かに人手不足は事実だと思いますが、DX は単にデジタル化することではなく、企業や事業を変革し、経営自体を変えていくということです。
最も重要なのは、経営者のビジョンが明確であり、現状の業務課題を見極められているかという点です。そこが把握できていれば、あとは改善していくだけだと思うのです。技術的な部分になれば ITベンダーなど外部の力を借りることができるので人手不足の解決は可能です。そのため、デジタル人材のとらえ方についてもっと広い視点で議論させていただくことがあります。
——企業の代表者には DX 自体について詳しくない方も多いと思います。そういった方々に貴庁では、どういった啓発活動をされていますか。

「西日本DX推進フェア2024」での「北九州市DX推進プラットフォーム」イベント風景
畑中 「ロボット・DX推進センター」を中心にさまざまなイベントやセミナーを開催しています。また、毎年 7 月に北九州市の西日本総合展示場で「西日本DX推進フェア」を開催しており、2024 年も 3 日間で併催の展示会イベントも含めてにはなりますが約 1 万 7000 人の来場者がありました。こういったイベントを通じて、ロボット・DX推進について理解を深めていただくとともに、企業間の交流や連携を促進しています。
その他に、「巡回相談」も行っております。実際に企業を訪問し、現場の困りごとを直接伺いながら、DX の可能性について対話する活動を継続しています。
中小企業の課題解決に向けた4つの支援の柱
——「ロボット・DX推進センター」の 4 つの柱である「導入支援」「操作体験」「人材育成」「集いつながりの場」についてご説明いただけますでしょうか。
畑中 「ロボット・DX推進センター」では「導入支援」、「操作体験」、「人材育成」、「集いつながりの場」という 4 つの柱を設けています。これは先ほど述べた中小企業の 4 つの課題に対応する形で構成されています。
「導入支援」では生産性向上に向けた相談をワンストップで受け付け、専門家による具体的な助言を提供しています。また、ロボットの導入や DX の推進に必要な資金の補助金支援を行っています。
「操作体験」では、センターで実物の作業用ロボットのデモ展示やIoTセンサーの活用事例を展示し、実際に見て学べる環境を整えています。中小企業の方々がロボットやIoT機器を目にする機会は意外と少ないため、実物を見て学べる場を提供することが重要だと考えています。
「人材育成」では、センターで「生産性向上スクール」という人材育成プログラムを実施しています。このスクールはロボット編とデジタル IoT 編に分かれています。ロボット編では、展示しているロボットに実際に触れて操作教育を行います。デジタル IoT 編では、DX への入口としてさまざまなツールや生成 AI などを使って何ができるかをハンズオン形式で学んでいただいています。これらは主に実務者向けですが、経営層や中間層などの方々には後でご紹介する「DX推進大学」でDX自体について学べる別のプログラムを用意しています。
最後の「集いつながりの場」では、センターを交流拠点として活用し、さまざまな企業と提携したセミナーやイベントを開催しています。昨年 2024 年は約 10 回の提携セミナーを実施し、多くの企業間ネットワークが生まれています。
——「導入支援」の中にワンストップ相談窓口とマッチング支援がありますが、これについて詳しく教えていただけますか。
畑中 相談窓口では、まずコーディネーターが初回の面談を行い、相談者が持つ本質的な課題を探ります。そのうえで支援計画を立案し、課題に適した専門家を派遣する体制を整えています。現在、民間から 83 名の専門家が登録しており、こうした企業からの相談に対応しています。
——「ワンストップ相談窓口」の利用状況や効果についてはいかがでしょうか?
畑中 2025 年 3 月末時点の累計で 450 件程度の相談を受理しており、専門家の派遣回数はおよそ1700 回に達しています。業種では製造業が中心ですが、卸小売、建設業、サービス業など幅広い企業からの相談対応があります。
利用者のアンケート結果では、8 割以上の方から最高評価の「満足」をいただいています。相談の目的である課題解決については、約 4 割が「相談の中で解決できた」と回答し、さらに 5 割が「解決に向けた方向性が見えた」と評価しています。単なる相談にとどまらず、具体的な成果につながっていることを示す結果だと考えています。
企業と支援者をマッチングする「地域DX推進システム」の役割
——「北九州DX推進プラットフォーム」で提供されている「ユーザー・ベンダーマッチングシステム」について、センターでの「ワンストップ相談窓口」との違いを教えていただけますか。
畑中 「北九州DX推進プラットフォーム」は幅広いサービスを提供するプラットフォームであり、ウェブサイトを通して情報発信をしています。その中で、会員向けに「ユーザー・ベンダーマッチングシステム」というサービスを提供しています。このシステムでは、 DX を進めたい企業が自社の課題や困りごとを登録し、一方で DX をサポートできる企業がその支援内容を登録します。これにより、ニーズとシーズがマッチングされ、市役所や事務局を介さずに直接企業間でやり取りができる仕組みになっています。逆にニーズを持つ企業が、シーズ側にアプローチすることも可能です。企業が主体的に自社に合った支援企業を探せる点が、専門家が介在する「ワンストップ相談窓口」と異なる点です。
さらに、「労働生産性見える化システム」というサービスも提供しています。営業利益や従業員数などの数値を入力すると、自社の労働生産性が算出され、プラットフォーム会員内での順位や同業種内での位置づけがわかります。自社の立ち位置を客観的に認識できるツールとなっています。
この「ユーザー・ベンダーマッチングシステム」と「労働生産性見える化システム」は株式会社YEデジタル様より無償提供いただいたもので、この二つを統合して、「地域DX推進システム」と呼んでいます。
——「地域DX推進システム」の活用によって、企業間でどのような変化が生まれていますか?
畑中 このシステムの最大の効果は、これまで接点がなかった企業同士がつながれるようになったことです。従来、中小企業が DX支援企業とコンタクトを取る機会は限られていましたが、このシステムを通じて、自社の課題に最適な支援先を各社が自主的に見つけられるようになったというのが大きな利点だと思います。
ロボット人材・DX人材育成の取り組みとその成果
——ロボット人材、DX人材の育成に向けた具体的な取り組みについて教えてください。
畑中 人材育成に関しては大きく 3 つあります。そのうちの 一つは、先ほど申し上げた「ロボット・DX推進センター」で開催している「生産性向上スクール」です。2 つ目は企業と連携した「提携セミナー」、そして 3 つ目が「DX推進大学」という事業です。
「DX推進大学」は北九州市立大学、北九州工業高等専門学校(北九州高専)、早稲田大学の 3 つの教育機関と連携した取り組みです。「DX推進大学」は実際の教育機関ではなく、この 3 校と協働で展開する人材育成プログラムの総称です。「DX推進大学」では、経営層や管理職をターゲットにした講座を中心に展開しています。経営層向けとしましては北九州高専に実施いただいております「第4次産業革命エグゼクティブ・ビジネススクール」というものがあり、DX に向けたマインドセットの形成から具体的な戦略立案まで、体系的に学べる内容となっており、個人単位で参加できる点も特徴です。この取り組みはDX推進における人材育成の中核として位置づけています。
——こうした人材育成プログラムの受講者からはどういった反響がありますか。
畑中 経営層向けのスクール受講者からは、「このままではいけないという危機感が非常に高まった」「変革に向けたアクションを具体的に即座に起こさなくてはいけないと感じた」といった声をいただいています。
実務者向けの講座では「勉強できる時間を作ることが難しかったが、このプログラムでまとまった時間で学習できた」「社内ですぐ実践できる具体的な手法を多く学べた」といった声をよくいただいています。私自身も講座を見学したことがありますが、参加者の意識変化や行動変容につながる内容になっていると実感しています。
企業の成功事例
——こういった人材育成講座での受講やセンターでの相談、または補助金支援などを通して、成功した企業のDX事例をいくつかご紹介いただけますでしょうか。
畑中 私たちの支援だけでなく、企業様自身の大変なご努力があってこその成果ですが、代表的な事例をご紹介します。特に注目すべきは、経済産業省が 2022 年から実施している「DXセレクション」で受賞した企業です。この「DXセレクション」ではモデルケースとなるような中堅・中小企業等のDX優良事例を表彰しています。
ありがたいことに、この制度開始から北九州市の企業が毎年受賞しており、現在 4 年連続で計 5 社が選出されています。これらの企業の中には、私たちの経営層向けスクールを受講したり、補助金を活用したりして事業を進めた企業もあります。
具体的な事例として、2022 年の DXセレクションで準グランプリを受賞した株式会社リョーワがあります。主に油圧機械装置のメンテナンス・整備を手がける同社は、油圧機器の電動化が進み需要が下降傾向にある中、新たな展開を考えていました。同社は工場の外観検査においてこれまで人手に依存しており作業負担も大きかった点に課題を見出し、AI を活用した検査システムを構築し、これにより新たなサービスを提供できるようになりました。
もう一つの事例は 2023 年の DXセレクションで準グランプリを受賞したグランド印刷株式会社です。シルクスクリーン印刷を主力としていた同社は、リーマン・ショックの影響で、広告需要が下降傾向にあるなか、この事業一本でいくのは厳しいのではという危機感を持たれ、既存事業のデジタル化・効率化を開始しました。そのなかで、これまで蓄積されていなかったデータや知見を集約し、それらの分析、いわゆるデジタルマーケティングを通じて新事業や新規顧客の可能性を見出し、新規事業を立ち上げました。さらにその事業もデジタル化・効率化して新たなデータを蓄積し、次の事業展開につなげていくという好循環を生み出しています。
※本事例の詳細は、『グランド印刷株式会社「リーマン・ショックからのデジタル化による業務改善と新規ビジネスの創出」』でご覧いただけます。
補助金の採択状況
——北九州市のDX推進のための補助金制度と支援規模について教えていただけますか。
畑中 DX推進のための補助金支援は、センター創設前の 2020 年(令和 2 年)から市の事業として開始し、2022 年(令和 4 年)のセンター創設からはセンターが補助金事業の運営を担っています。2020 年からの累計で約 250 件の支援を行い、金額にして約 3 億 8000 万円の補助金を交付してきました。
現在の補助金制度には2つの枠組みがあります。① DX推進計画を策定するための「計画策定枠」、② デジタル技術を活用した技術革新や新規事業創出のための「事業変革枠」です。2024 年度はこのほかに業務プロセス改善やIoT技術導入による「生産性向上・付加価値創出枠」という枠もありました。2024年はこの「生産性向上・付加価値創出枠」の申請が最も多く、企業の段階的な DX推進を反映した結果となっています。
各枠の補助金額は「計画策定枠」は最大200万円、「事業変革枠」では最大 500 万円です。より大規模な支援が必要な場合は、国が実施している「ものづくり補助金」や「事業体構築補助金」など、千万円単位で支援可能な補助金制度もご案内しています。
——ロボット導入に関する補助金制度についても教えていただけますでしょうか。
畑中 ロボット導入の支援枠には 二つあります。産業用ロボットなど導入のための「事前検証FS(実現可能性調査)枠」(最大 200 万円)と「産業用ロボット等導入支援補助金枠」(最大 500 万円)です。
ロボット補助金支援は 2013 年(平成 25 年)から開始しており、DX推進支援より前に始まっています。ただし年間の件数は DX推進支援申請と比べるとそれほど多くなく、開始からの採択件数は約 60 件、金額では累計約 2 億 3000 万円です。これは産業用ロボット導入のハードルが DX関連施策より高いためですが、着実に実績を重ねています。
——補助金の審査ではどのような点を最も重視されているのでしょうか?
畑中 補助金交付にあたっては、単なるデジタル化や個別最適化ではなく、ビジョンが明確で、それに向けた具体的なロードマップが立案されていることを重視しています。審査は DX に精通した専門家が行い、真に DX の本質を捉えた提案を選定しています。
DXは手段にすぎない ―真の目的は企業の変革と地域の活性化
——DX推進について、今後の取り組みや展望などについてお聞かせください。
畑中 まずは、「ロボット・DX推進センター」の認知度をさらに高め、より多くの地域企業に活用していただく取り組みを進めていきます。
また、先ほどお話したとおり北九州市は「ものづくりのまち」として知られていますが、市内約 4万の事業所のうち、製造業だけでなく、卸小売、建設業、サービス業なども多くを占めています。これまでは製造業を中心に支援してきましたが、今後は市全体をより「稼げるまち」にするために、まだDX化が進んでいない製造業以外の業種にも積極的にアプローチしていく必要があると考えています。
——最後に、DX推進方法について迷っている全国の自治体にメッセージをいただけますでしょうか。

畑中 DXというと、まずはデジタル化を進めなければと考えられがちですが、DXの本質は単なるデジタル化ではありません。企業や事業をどのように変革していくかというビジョンを定め、その実現のためにデジタル技術をどう活用するかが重要です。DXは企業の根幹に関わる取り組みですが、そこまで踏み込む支援は一筋縄ではいかないという現実もあります。
北九州市のDXの取り組みはご評価をいただくことが多いのですが、これは北九州市単独で実現できたわけではありません。「北九州市DX推進プラットフォーム」に参加する企業・団体・教育機関・研究者など、さまざまなパートナーの力があってこそ実現できた成果です。自治体だけで解決しようとせず、連携できるパートナーを見つけることが重要です。
繰り返しになりますが、重要なのはデジタル技術の活用ではなく、企業の変革です。北九州市ではDXのみならず GX(グリーントランスフォーメーション)推進支援も行っていますが、時代の流れを見据えた、今の時代からこの先の時代がどう動いていくかを見据えた変革支援をしていくことが何より重要だと考えています。
最後にご案内ですが、毎年開催している「西日本DX推進フェア」を 2025 年も 7 月に開催します。DX推進フェアという名前ですが、今年は DX だけでなく GX の内容も盛り込み、社会変革をテーマにしたセミナーイベントを開催する予定です。こういった取り組みにご関心があればぜひお越しください。
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製造業の街として発展してきた北九州市が今、地域ぐるみのDX推進で描く新たな未来図。「北九州市DX推進プラットフォーム」と「北九州市ロボット・DX推進センター」を核に、中小企業の課題解決と生産性向上を一体的に支援する取り組みは、地方都市における産業振興の新しいモデルを示している。
印象的だったのは、「DXは単なるデジタル化ではなく、ビジョンを持った企業変革である」という畑中氏の言葉だ。技術導入は目的ではなく手段であり、その先にある企業の根本的な転換こそがDXの本質であるという明確な理念が、北九州市の取り組み全体を貫いている。
中小企業のDX推進と産業再興という新たな挑戦への姿勢と、こうした取り組みを通した北九州市が仕掛ける「稼げるまち」づくりは、地方都市のDX推進における新たな指標を提示し続けることだろう。
*本記事は、地方公共団体DX事例データベースに掲載しているDX事例「北九州市DX推進プラットフォーム創設、北九州市ロボット・DX推進センター開所等による市内中小企業のDX支援の加速化」の特集記事となっています。こちらもあわせてご覧ください。