通信技術でインフラの危機を救う ― NTT東日本が挑む、老朽化と担い手不足に向けた新時代のインフラDX

高度経済成長期に一斉に整備された社会インフラが、いま全国で老朽化の時を迎えている。道路、橋、上下水道、そして通信網。維持・保守を担う人材が減り続けるなか、点検や補修にかかるコストは膨らむ一方だ。

この難題に、通信事業者ならではの技術で挑むのが NTT東日本である。約 150 年にわたり地域の通信を支えてきた強みを生かし、自社の通信設備を守るなかで培った、光ファイバセンシングをはじめとする独自技術や、MMS(Mobile Mapping System)・ドローンといった技術の活用知見を、道路の陥没検知や下水道の無人点検、道路舗装設計へと応用。さらに道路占用申請のDX化では全国約 120 の自治体へと輪を広げ、官民でデータと仕組みを共有する新しいインフラ維持の形を築きつつある。

NTTe-City Labo (正門からの風景・NTT東日本提供)

その挑戦の現状と、担い手不足時代のインフラを支える構想について伺うため、実証の舞台である東京都調布市にある NTTe-City Laboを訪問。

NTT ME 株式会社の社会インフラデザイン部長 佐々木(おさむ)氏と、NTTe-City Labo所長の楢村(ならむら)(ゆき)(ひろ)氏に話を聞いた。

        

左:

NTT ME 株式会社
社会インフラデザイン部長 佐々木(ささき) (おさむ)

右:

NTT東日本株式会社
NTTe-City Labo所長 楢村(ならむら) (ゆき)(ひろ)

老朽化する社会インフラ――地上から地下まで広がる課題

―― 全国的にインフラ課題を抱えていますが、NTT東日本ではどのような課題をお持ちでしょうか。貴社所有のインフラの老朽化、例えば電柱についてお話しいただけますか。

NTT ME 株式会社
社会インフラデザイン部長 佐々木 理氏

佐々木 まさに今おっしゃっていただいたとおり、高度経済成長期に設備を一斉に整備したこともあり、そうした設備の老朽化が進んでいます。特に電柱などの目に見える設備は、その傾向が顕著です。そのため、電柱については、劣化したものを随時交換しており、倒壊のリスクが生じないよう努めています。

ここで先人に感謝したいのは、昔の紙の図面をデジタル化し、データベース化してくれたことです。紙をデジタルに置き換えると座標などのズレが生じますが、その補正のために毎年定期的に点検し直す作業を積み重ねてきました。そのおかげで、今は基本的にデータベースだけで仕事ができるようになっています。

―― 目に見えない地下の状況についてはいかがでしょうか。

佐々木 地下にある管路の点検は容易ではありません。また、点検のためのマンホールが道路上にあるので簡単に交換ができません。そのなかで、補修・補強をしてきましたが、この先どれだけのコストがかかるのかは不透明で、そうした点では大きな懸念です。

2015 年 11 月に、国土交通省が自治体に排水施設の 5 年に 1 度の周期点検を義務づけてから、ここ数年で下水道もしっかり点検されるようになりましたが、弊社は、自社の通信設備について何十年も前から点検を継続し、データを蓄積しています。そのため安全だと認識しています。とはいえ、将来に向けて今から何を備えられるかは、大きな課題の一つだと考えています。

担い手不足という共通課題         

――人手状況についてはいかがでしょうか。

佐々木 インフラの点検・保守は、いわゆるブルーカラーと呼ばれる現場仕事であり、若い人たちが魅力を感じるような華やかな仕事とは、まだ言えないのが実情です。その魅力度を高めていくには、働く人の待遇や効率化が鍵となると思います。ただ、効率化を進めてきてはいるものの、自社単独でこれ以上の効率化を図るには限界があるという現状でもあります。

しかも、通信は競争の厳しい分野ですから、待遇改善の原資を料金の引き上げでまかなうには限界があります。だからこそその解決策は、自治体と協力してお互いの仕組みやデータをシェアし、効率化の質をさらに向上させていくことにあると考えています。

―― お互いの仕組みやデータをシェアするというお話が出ました。楢村さんは、NTT東日本のインフラ課題を、社会全体のインフラ課題とのつながりのなかでどのように捉えていらっしゃいますか。

NTTe-City Labo所長 楢村 幸寛氏

楢村 弊社は通信事業者として、通信を届けるための通信設備を大量に持っていますので、それを守り続けていかないと全国津々浦々まで通信をお届けできなくなります。昔作った設備が老朽化していく一方で、直す人材は減り続けています。だからこそ、テクノロジーを活用して点検・保守を効率化し、その精度も高めていかなければ、私たち自身が立ち行かなくなってしまう。そうした危機感から、まずは自社の設備を守るために、さまざまな技術を使い始めています。

そして少し視野を広げてみると、社会インフラと言われている道路、橋、マンホール、あらゆる社会インフラもまったく同じ老朽化の課題を抱えています。だとすれば、「自分たちのインフラを守るために培った技術が、そのまま社会全体のインフラ維持に役立つのではないか」と考えました。それは社会貢献であると同時に、私たちの新しいビジネスにもなります。こうした自社の技術を社会インフラ全体へ展開していく取り組みを、今まさに進めているところです。

佐々木 ただし、こうした取り組みも、事業として成り立ってこそ長く続けられます。適正な対価をいただきながら、持続的に取り組んでいくことが大切だと考えています。

バラバラな制度が阻む、道路インフラの維持

―― NTT東日本の電柱は道路の至るところに建っており、修復のたびに道路管理者への道路占用申請 (注1) が必要になると思います。実際のところ、管理者が国や自治体とさまざまであることで、手続きが難しくなることはないのでしょうか。

(注1): 道路占用申請:道路の上、または地下にある電柱や通信管路、上下水道管などの設備を設置・工事する際に、道路管理者(国や自治体など)の許可を得るための申請。

佐々木 おっしゃるとおりで、道路には国道、県道、市町村道があり、それぞれ管理者も基準も異なります。しかし、それぞれ個別の事情こそあれ、「安心・安全な通行を実現する」という目的は共通のはずです。それなのに、本来ひとつにつながっているはずの道路に対して、申請の仕組みや基準だけがバラバラなのが課題です。

電柱は国道にも市町村道にもあるため、連続して工事を行えば複数の管理者をまたぎます。地続きの一本の道路でも管理者ごとに別々の申請が必要で、資料のフォーマットが同様な場合でも、求められる添付書類の内容は担当者ごとに変わることもあります。

そのため、私たちNTT東日本側にも、非常に高度で特殊なノウハウが必要になってきます。通信の知識だけでなく、建築や土木の法規制まで把握していないと対応できません。しかも、高度経済成長期を支えてくれたベテラン技術者、いわゆる団塊の世代の方々が一気に退職されたこともあり、そうした複雑なノウハウを持つ人材が社内でも減ってきています。

「この自治体はこういうやり方」「あの自治体はあのルール」という泥臭い個別対応を覚えて動ける人材を育成するのは、容易ではありません。その点で、国が主導してこうした道路占用の申請基準や手続きを、なるべく全国一律で「標準化」していただきたいという切実な思いもあります。

課題に挑む NTT東日本のソリューション

膨大な「個別ルール」からの脱却 ―― 全国約 120 自治体に広がる道路占用申請のデジタル化

―― まさに「手続きのバラバラさ」や人手不足からの「ノウハウ不足」という課題のソリューションが、NTT東日本の進める道路占用申請のDX化なのですね。

佐々木 まさにその通りです。実は国も同様のデジタル申請システムを用意しています。しかし、その利用には自治体側の利用料負担が必要で、財政に余裕のある政令指定都市などを除いて、多くの自治体では導入がなかなか進んでいませんでした。

そこで私たちは、「システム開発費を NTT東日本側が負担してでも、手続きをデジタル化しないと、私たち自身の業務効率化も進まない」と腹を括ったのです。そして 2020 年頃からいくつかの自治体と協定を結び、共同開発をスタートさせました。

私たちは「申請する側」、自治体は「受け付ける側」ですから、双方の意見を反映したシステムを目指しました。その際、特定の地域でしか使えないものでは十分な効果が得られないため、「将来的に全国へ水平展開(標準化)する前提で協力してください」と最初からお願いしていました。

道路占用許可申請のDX化モデルイメージ(NTT東日本の資料をVLEDが加工)

―― 多くの自治体にとってもその取り組みは助かると思います。展開状況はいかがですか。

佐々木 システム構築の着手から 5 〜 6 年が経ち、今では全国でトライアルを含めて約 120 の自治体にまで広がっています。このシステムは自治体に「無償」で使っていただく形にしており、その原資は私たち自身の業務効率化ということにもなっています。

地下の通信網を「センサー」に ―― 光ファイバーで道路陥没の予兆を捉える

―― そうした官民両者のメリットとなる道路占用申請のDX化のほか、埼玉県八潮市での陥没事故を受け、陥没につながる恐れのある空洞を検知する光ファイバーを用いた「光ファイバセンシング」技術」(注2)を開発し、実証を行われているとのこと。こちらも官民連携なのでしょうか。この実証の背景について教えてください。

(注2): 地中に張り巡らされた通信用の光ファイバーを「センサー」として活用し、ケーブル周辺の振動を広範囲かつリアルタイムに観測することで、道路の陥没の予兆を検知する技術。

佐々木 まずは弊社独自の実証として、陥没事故が起きた現場近くの埼玉県道で行いました。八潮市の事故が起きた際、弊社も埼玉県で地下に直径 2 メートルほどの大きな通信トンネルを持っているため、私たち自身が同じような被害を受ける恐れもあります。決して他人事ではなく、この事故に対して自分たちに何ができるかを考えたとき、光ファイバーを使えば予兆を検知できたのではないか――そう思ったのが出発点でした。

光ファイバセンシングデモンストレーション動画(NTTe-City Labo協力)

――NTT東日本の光ファイバーは地下で至るところに張られているイメージがあります。その意味で、どこで実証できると考えてよいですか

佐々木 はい。光ファイバーが地下に敷設されているのは、やはり幹線道路が中心になります。需要が大きいところですから、国道や県道、市町村道でも交通量の多いところは地下化されており、そうした場所であればどこでも実証できますし、東京都、千葉市、茨城県、埼玉県などいくつかの自治体と一緒に行っており、他の自治体の皆さまからもお話をいただいています。

―― この実証の中でNTTが開発した「高精度分布音響センシング(DAS)技術」をお使いになっているとのことですが、この技術についてお話しいただけますか。

佐々木 従来は、単一の波長の光(パルス)を送り、返ってくる信号(パルス信号)を捉える技術でした。振動が起きると返ってくる信号にわずかな変化が生じるため、その変化から、どこでどの程度の揺れが起きているかを捉え、地盤の異変の予兆を検知するのです。新しい技術は、波長の異なる複数のパルスを一度に流し、まとめて戻す仕組みです。これにより、単一のパルスで測るよりも高い精度で計測できる技術を、NTTで研究開発しています。

従来技術は一つの波長で検出するため、さまざまな信号が画面に現れ、ノイズとなって検出を難しくするという課題がありました。そこで複数の波を送り、戻ってきた光を合成・平均化して見ることで、こうしたノイズを打ち消し、振動している部分とそうでない部分がより鮮明に判別できるようになったのです。

研究段階ですが、早ければ今年 2026 年度からの市販化を見込んでいます。従来技術でも、ある程度の空洞は検出できることが確認されていますが、さらなる精度向上のため、新しい装置での実証も並行して進めています。

光ファイバセンシングの応用と官民連携

―― この光ファイバセンシング技術で、空洞が検出された際に、道路周辺の住民への早期避難警告などにも活用できるのですか。

佐々木 住民の方の安全を守ることが第一です。その意味で、検証の段階で 100 % 確実に「空洞である」と断定するのは難しく、まずは「空洞化の可能性があるか、何らかの異変が生じていないか」という兆候を捉えるイメージで進めています。その先の「どのように住民へ伝えるか」「どのタイミングで伝えるか」については、やはり自治体とともに考えていく必要があります。

想定できる状況としては、空洞化による危険の兆候が判明した時点で、まずは「通行止め」の措置をとります。そのうえで、ドローンによる下水道管内部の確認や、他の手法での空洞調査を組み合わせるなど、詳細な調査を実施します。その結果、危険がないと確認できれば通行規制を解除し、問題があれば早期に復旧する、という流れになります。

こうした対応を実現できるかどうかは、最終的には自治体の意思決定に委ねられます。その判断を的確に下していただけるよう、私たちは根拠となるデータを提供しています。

―― 人にアクションを起こしていただくための説得データですね。

佐々木 そのとおりです。自治体で昨今とられている EBPM(エビデンスに基づく政策決定)のサポートをしていくことも目指して、今まさに東京都をはじめとする自治体の皆さまと協力して作り上げているところです。

―― 地震検知と住民の方の早期避難警告ということでも活用できそうですね。

佐々木 はい。地震災害への活用も構想にあります。正確な「震度」を出すという手段で使うのは難しいのですが、相対的な地盤の確認が可能です。例えば、調布のこの場所と、ここから 1 キロ離れた場所で揺れ方がどう違ったかは間違いなく確認できます。これにより、地震が起きた直後の被災状況の予測に活用できると考えています。

―― つまり、地震が発生した後に、被害状況を把握・検証するための活用ということでしょうか。

佐々木 事後に調べるというよりも、地震が起きた瞬間から常時モニタリングしておくことで、どの地域の被害が大きかったか、あるいは小さかったのかがわかります。「震度 5 だから危ない」「震度 4 だから大丈夫だろう」という判断になりがちですが、実際には震度 4 でも、地盤の揺れ方によっては被害が生じます。「ここは揺れ方が異常だから危険だ。優先的に点検に行こう」というふうに、まだこれからのことですが、震度とは別の観点で、本当に危険な場所をデータから見極めてピンポイントで対応を効率化できるのが強みとなると思います。

実証の舞台、NTTe-City Labo

―― 光ファイバセンシング技術のデモ展示を拝見し、視覚を通して理解しやすいですし、イメージも頭に残りました。この NTTe-City Labo はどういう経緯で開設されたのでしょうか。

楢村 当施設は、戦後すぐから NTT社員の研修の場として開設され、今でも社員育成の研修に使われています。一方で、広大な屋外フィールドを活用し、先ほど触れたような新しい技術の実証も行っており、最先端技術の「実証実験の場」としての顔も持っていました。私有地であることを活かし、次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」を接続した実証や、無人自動運転車を走らせて住民試乗会を行うなど、世の中に出る前の新しい技術や事業をここで検証してきた歴史があります。

ところが、NTT がこうした最先端の取り組みをしていることは、世間にあまり知られていませんでした。転機となったのはコロナ禍です。リモート研修の普及によって集合型の研修が減り、一時は施設があまり使われなくなりました。「この敷地をより有効に活用できないか」と模索する中で、この場所を広く一般に開放し、私たちの新しい挑戦や技術を体感してもらおうと、2022 年 5 月にさまざまな展示を集約して開設したのが、この NTTe-City Labo です。

―― どのような形で NTTe-City Labo を開放されているのでしょうか。

楢村 当施設は基本的に弊社の営業フロントや NTTグループ社員がお客様をご案内する「招待制」の形をとっています。見学内容は、「百聞は一見に如かず」で実際に見聞きし、体験していただけることを目指しています。例えば、無人運転バスが実際に走る姿をご覧いただければ、言葉で説明するよりも実証状況が一目瞭然です。また、通信のような「目に見えない技術」についても、できるだけ分かりやすく視覚的にお伝えできるよう、随所に独自の工夫を凝らしてご紹介しています。

―― 自治体向けに特化した研究があれば教えていただけますでしょうか。

楢村 実は、私たちは「自治体向け」、「民間向け」という区別をしていません。私たちが新しいことに取り組むのは、そこに社会的な課題があるからです。その課題を起点に、ビジネスを始めています。

例えば、農業の高齢化対策への効率化や、バス運転手不足に伴う自動運転などです。これらは民間の課題であるとともに、「地域産業の衰退」や地方の「高齢者の移動手段の喪失」といった、自治体自身が抱える課題そのものでもあります。そういう意味で、いずれの領域に向けた取り組みか、という区別はしていないのです。

―― 課題のあるところにサービスを提供するというビジネスの基本が、地域や社会の課題ともつながり、結果として自治体の支援にも結びついているということですね。

楢村 まさに、すべてつながっていると考えています。社会や地域が抱える課題を起点に事業を組み立てていけば、その解決はおのずと自治体の課題解決にも結びつきます。課題そのものに向き合うことが、結果として官民双方の価値につながっていく。私たちはそう捉えています。

―― NTTグループは非常に大きな組織で、グループ会社も多岐にわたるので、このラボはどのような方に向けた施設で、NTT東日本とはどういう関係にあるのか、お聞かせいただけますか。

楢村 この施設は、NTT東日本が作り、創設時から現在まで管理・運営を行っています。ですので、開設当初は  NTT東日本とその傘下のグループの商材やソリューション、取り組みを紹介していました。現在はその対象を広げ、グループ全体でお客さまを呼び込む場所に発展しています。

今でも運営こそ NTT東日本ですが、位置づけとしては「NTT グループ全体の実証・製品のプロモーション施設」とご理解いただければと思います。

作業員の安全と効率化を支える技術

―― 現場の作業員の安全確保もインフラ課題の一つだと思います。近年、下水道管の検証時に作業員の方が死亡する痛ましい事故が各地でありました。それを受け、NTT東日本では作業員の安全確保を目的に、昨年 2025 年 11 月に神奈川県でドローンを活用した下水道管の検証を行っています。この実証の成果と作業員の方の反響についてお話しいただけますか。

佐々木 はい。有害なガスが発生し暗く狭いといった劣悪な環境に、人間が立ち入らずに「ノーエントリー」で点検できることを目指してきました。それが実現できたことが、最大の成果だと言えるでしょう。

下水道管の中に入るドローン (NTT東日本提供)

下水道管の内部は暗いうえ、曲がりくねっていて視界が利きません。そうしたなかでも、ドローンを使うと 150 メートルほど先の映像まで見ることができます。また、真っ暗な中でも非常に明るい照明で確認できるほか、ドローンに搭載されているライダー(LiDAR)(注3)で点群データを取得できます。しかも、点群の取得に明るさは関係ないため、下水道管の内部情報をくまなく収集することができます。さらに、AI の活用により、人の目と同等の精度でひび割れを検知でき、点群データからは下水道管の変形状態なども可視化できます。このような点が作業員の方から大変評価されました。

(注3): LiDAR(Light Detection and Ranging):レーザー光を対象物に照射し、反射して戻るまでの時間から距離を測定することで、周囲の形状を三次元の点群データとして取得する技術。

このように、定期的にドローン撮影を継続していけば、前回と今回のデータを比較することができます。下水道管は大体コンクリートでできているので、「中の壁が剥がれ落ちてきた」といった変形を、発生場所とともに、つぶさに把握できるようになります。このように、これまでの技術や人の目では分かりづらかった異変もデジタル技術によって把握できる点は、現場で高く評価されています。

MMS が変える道路舗装設計

―― ライダー(LiDAR)で点群データが取得できるということですが、これは MMS (注4)にも使われていますね。この MMS を活用して、NTT東日本は、新潟県の株式会社植木組との取り組みで、国土交通省主催の 「令和5年インフラDX大賞」 で優秀賞を受賞されたとのこと。この取り組みと MMSについてお話いただけますでしょうか。

MMS 計測車両
(NTT東日本提供)

(注4) :MMS(Mobile Mapping System):車両にレーザースキャナ(ライダー)やカメラ、GPS などを搭載し、走行しながら道路や沿道の構造物を三次元の点群データとして高精度に計測するシステム。

佐々木 道路の舗装工事の設計に MMS のデータを利用したという取り組みです。

舗装工事でイメージしやすいのは、例えば地面を平らにする工事で、地面を切断してはがし、舗装材で固める作業です。この準備のために、従来は、路面に測量機を置いて人がレンズを覗きながら測量する手法を使い、舗装の状態をデジタルデータ化していました。しかし、MMS の点群は「1 点 1 点に位置(座標)情報」があるため、走るだけで路面の凸凹や高さを正確に判定できます。

植木組さんは、このデータをもとに設計を行いました。この設計には二つの側面があります。一つは、「舗装の厚み」を計算し、必要な舗装材の量やコストを事前に試算すること。もう一つは、工事車両とのデータ連動です。舗装工事の分野でも電子化が進んでおり、工事車両に点群データを取り込むことで、どの場所にどれだけの舗装材を投入すべきかを調整しながら、効率的に工事を進めることができます。

このように、私たちが普段電柱点検に使っている MMS のデータを、道路工事を行う植木組さんの「道路舗装の DX」に応用したのは、弊社としても初の試みでした。この取り組みをインフラ DX大賞に植木組さんと共同でエントリーし、優秀賞をいただくことができました。

―― この MMS を NTT東日本では普段の電柱点検でどのように活用しているのでしょうか。

佐々木 自社の場合、電柱・電線の保守に使っています。特に電柱については、従来は作業員が現地に赴き、たわみや傾きの有無を双眼鏡などを用いて目視で確認していましたが、これをデジタル化し、何センチたわんでいるのかの確認などに活用しています。

MMSを活用した電柱点検のイメージ (NTT東日本提供)

―― 他の活用事例についてもお話いただけますか。

佐々木 代表的なのは、自治体が作成する道路台帳です。道路台帳とは道路の基礎となるデータで、路線名のほか、どの道路の幅が何メートルあるかといった情報が記載されています。これもなかなか電子化が進んでいないのが実情ですが、MMS のデータを活用することで、かなり効率的に道路台帳を作成できます。

もう一つは、自動運転向けデータプラットフォームへの活用です。自動運転用の地図を提供するダイナミックマッププラットフォーム株式会社(DMP)は、自動運転に必要な点群データを収集しています。同社は高速道路のデータ取得から始めた経緯があり、一般道のデータが不足していました。一般道のデータ取得には多大なコストがかかることも、その一因です。そのため、昨年 2025 年 12 月から、私たちの電柱用に取った MMSデータを同社に提供させていただいて、 DMPさんよりデジタルマップとして提供されるサービスを始めています。

―― この NTT東日本のデータは広く提供されているのでしょうか。

楢村 インフラメンテナンスに限らず、弊社のデータを別の目的で活用したいと希望される企業にも、有償でご提供しています。この蓄積してきたデータを、自社の用途以外に、必要とされる分野でも広く役立てていただけたらと考えています。

展望――分断された社会インフラをつなぐ

―― 今年 2026 年 2 月に NTT東日本は埼玉県行田市下水道管路の DX に関する連携協定を締結しています。そして、ドローンを使った検証のみならず、管理までの一気通貫の実証が行われているとのこと。こうしたインフラ対策全般について、NTT東日本のソリューションとしてどこまでの範囲をカバーしていくのが重要とお考えでしょうか。

佐々木 やはり、現在の社会インフラは分断されたまま管理されているため、それをいかに統合していくかが重要だと考えています。その意味で、まず点検はもちろん行います。そのうえで、点検で得たデータを格納するプラットフォームを提供していくことも重要です。

同じプラットフォーム上で、例えば上水道、下水道、道路、そして私たちの通信インフラといった各設備の劣化状態を一元的に可視化できるようにする。そうすれば、「この道路は複数の設備が劣化してきているので、まとめて補修しよう」といった判断が可能になります。結果として工事を共同で実施でき、コストも抑えられる。そこまで実現していければと考えています。もちろん、これは社会インフラ全体をより良くするためです。

―― 2022 年に、東京ガスネットワーク株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社と、「インフラ事業における「持続安定化」や「地域価値の向上」に資する取り組みの推進」を目的として 3社連携協定を締結されています。この協定では、どのようなことを目指しているのでしょうか。

佐々木 この連携には、担い手不足に対して「仕組みやデータを共有していこう」という狙いがあります。さらにもう一歩踏み込み、これまで私たちインフラ事業者に不足しがちだった「顧客目線」を大切にしたいと考えています。

例えば、新しいビルが建つとき、オーナーは NTT、電力、ガスにそれぞれ別々に設備の申請を出さなければなりません。しかし申請する側からすれば、窓口が一つにまとまっている方が望ましいはずです。このように「顧客目線」に立つと、これまでとはまったく違う発想が生まれます。

窓口を一本化することで、申請業務の仕組み自体を抜本的に変えていくことが可能となり、事業者同士の共同化もさらに進んでいくと考えています。まさに東京電力、東京ガスとも同様の議論を重ねながら、「顧客目線でインフラをより良くしていく取り組み」を共に進めているところです。

―― 今の佐々木さんのお話を踏まえ、NTTe-City Laboでの現在のインフラ対策など、社会課題に向けた今後の活動についてお話しいただけますか。

楢村 この施設は、新しい事業を試すためのフィールドです。例えば点検作業であれば、より新しい機械やテクノロジーを取り入れ、効率化やコスト削減を図るといった手法を、この施設で、そして社内でも存分に実証していきたいと考えています。

そして、その取り組みを社会に広く知っていただき、実際にどこかの街で実証する。この場所が、そうした技術が日常的に使われるようになるための発信基地となるよう、今後も多くの取り組みを世の中へ届けていきたいと思っています。

自治体・インフラ関係者へのメッセージ

―― 自治体、インフラ関係者の方へメッセージをお願いします。

佐々木 いま、担い手不足は非常に大きな課題です。しかし、ドローン、AI、ロボットといった最新技術を使いこなしてインフラメンテナンスを担う、いわば「かっこいいブルーワーカー」の姿を確立できれば、若者も集まり、それが日本の競争力になると思っています。

ただ、これは弊社だけで実現できるものではありません。
だからこそ、業界の垣根を越えて、電力・ガス会社や自治体をはじめとする皆さまと連携を進めています。実際に先のとおり、東京電力パワーグリッド、東京ガスネットワークの皆さまとも一緒に取り組みを行っています。さらに、建設コンサルタントの方々とも「ワンチーム」となって進めていければと考えています。現在、さまざまな方々とお話を重ねているところであり、ぜひ仲間を増やし、多くの方々と手を取り合っていきたいと思っています。

―― 楢村さんからもメッセージをお願いします。

楢村 この施設は、新しい取り組みや技術を試し、世の中に広げていく起点になるような場所だと捉えています。自治体の皆さま、ぜひ前例主義にとらわれず一歩を踏み出していただき、新しい取り組みに挑戦してみませんか。

私たちも伴走しながら、さまざまな課題に向けて、そうした新しい取り組みに一緒に挑戦していければと考えています。今後も多くの自治体の皆さまにこの場をご覧いただき、私たちと手を組んで踏み出す仲間を増やしていければと思っています。

* * *

老朽化と担い手不足という、あらゆるインフラに共通する難題。その解を、NTT東日本は「自分たちのインフラを守るために培った技術は、そのまま社会全体のインフラを支える力になる」という発想の中に見出した。そして、道路占用申請の DX化、舗装設計の効率化、さらに道路の陥没検知から下水道の無人点検へと、次々に社会実装へつなげてきた。

そこに通底するのは、これまで分断されて管理されていた社会インフラをデータによって統合し、持続可能な地域社会を築くという構想だ。得られたデータを共通の基盤に束ね、上下水道・道路・通信をまたいで一元的に可視化する。それが実現すれば、担い手不足の時代に、テクノロジーを操る「かっこいいブルーワーカー」への変革が現実のものとなる。業界の垣根を越えて共創の仲間を増やしていく同社の挑戦は、自治体やインフラ関係者にとって、未来へともに一歩を踏み出す確かな指針となるだろう。

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