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コラム

行政におけるAI活用の可能性を考える - 鍵は活用可能なデータの整備 ー

2017年02月20日(月) [株式会社 三菱総合研究所 社会ICT事業本部  主席研究員 村上 文洋]

※このコラムは、「行政&情報システム」(2017年2月号)に掲載した連載企画「資源としてのデータを考える(第6回)」の内容を、発行者である「一般社団法人行政システム研究所」の了解を得て、掲載しています。

→ PDF版はこちら 「「資源」としてのデータを考える_6」 [PDF 1.2MB]

川崎市・掛川市でのAI活用実証実験

株式会社三菱総合研究所では、川崎市、掛川市の協力を得て、2016年9月6日から30日までの約1か月間、「AIによる住民問合せ対応サービス」の実証実験を行った*1。実証実験用のプロトタイプの開発には、株式会社アスコエパートナーズ*2、イナゴ株式会社*3の協力を得た。
スマートフォンの普及により、行政の情報提供も、パソコン用のwebサイトからスマホ対応(いわゆるスマホファースト)が求められるようになってきているが、多くの自治体ではまだ対応が十分とは言えない。また、知りたいこと、調べたいことが明らかな場合は検索で該当ページを見つけることができるが、そもそも知りたいことや調べたいことが曖昧だったり、気づいていなかったりする場合、行政の情報は住民に届かない。
今回の実証実験は、AIとの対話を通して、住民が必要な情報に気づき、入手しやすくするサービスを開発することを目的としている。
また、住民と接する機会の多い部署の行政職員は、日常業務の中の多くの時間を、電話や窓口での住民からの問い合わせ対応に割いている。簡単な問合せをAIに代替させたり、前裁きをAIが担ったりすることができれば、より多くの時間を本来業務に割くことができるようになる。ベテラン職員の頭の中にある経験をAI化することで、ノウハウの継承も可能になる。 サービスで用いたプロトタイプの概要は次図のとおりである。自治体のwebサイトページを、アスコエパートナーズの「ユニバーサルメニュー」*4を用いて標準化し、これをもとにFAQデータベースを作成、イナゴの自然言語解析可能な対話エンジンを用いて利用者にサービスを提供した。 実証実験に参加いただいた利用者(川崎・掛川市の市民及び行政職員など)からは、24時間いつでも使えること、電話や窓口よりも気軽に使えることなどが評価され、約9割がサービスの継続を希望した。 三菱総合研究所では、本格サービスの提供に向けて、さらに検討を進める予定である。



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図1 AIによる住民問合せ対応サービスの概要
出所:三菱総合研究所作成



表1 AIによる住民問合せ対応サービスのメリット

対象 メリット
住民にとって ・必要な情報にアクセスしやすくなる。
・スマホから気軽に使える。
・24時間365日いつでも使える。
行政職員にとって ・簡単な問合せが減り、本来、対応すべき人に時間を割くことができる。
・ベテラン職員のノウハウを継承できる。
・他部署の業務を知ることができ、分野横断での相談対応もしやすくなる。

出所:三菱総合研究所作成



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図2 利用者の評価(川崎市・掛川市での実証実験より)
出所:三菱総合研究所作成

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図3 利用者のサービスの継続意向(川崎市・掛川市での実証実験より)
出所:三菱総合研究所作成

AIに不可欠なデータ

Google DeepMindのAlphaGo(囲碁ソフトウェア)や、山本一成氏らが開発したPonanza(将棋ソフトウェア)がプロ棋士に勝ったり、IBMのWatsonが患者を診断し適切な治療法を見出したりするなど、AIの急速な進歩が話題になっている。企業はもちろん、行政においても今後、AI活用の検討が本格化するものと思われる。 AIの活用には大量のデータが必要不可欠である。囲碁や将棋の場合、過去の膨大な棋譜を読み込み、さらにはコンピュータ同士で対戦させることで棋力を飛躍的に向上させた。Watsonも膨大な医療論文を読み込むことで診断などが可能になった。行政分野でAIを活用する場合も、学習させるデータをできるだけ多く読み込ませる必要がある。現在の行政情報は、webページなどを通して人が読みやすいように提供されているが、これに加えてコンピュータに読み込ませるためのデータ整備を進める必要がある。データがなければAIはただの箱、データはAIを動かすガソリンなのだ。

行政間のデータ標準化

またこれからは、各自治体が自前でアプリやサービスを開発・導入するのではなく、民間サービスを活用して効率的、効果的に情報提供することが望ましい(本連載のNo.2(2015年10月号)*5、No.4 (2016年6月号)*6参照)。この場合に必要となるのが、自治体間でのデータの標準化である。AIによる住民問合せ対応サービスも、多くの自治体にクラウドサービスとして提供することで、1団体あたりの負担を減らすことを想定しており、自治体間でのデータ標準化の仕組みとして、アスコエパートナーズの「ユニバーサルメニュー」を採用した。多くの自治体に使ってもらえば、より多くのデータを収集し、住民ニーズを分析したり、自治体間での比較を行ったりすることが可能になる。AIによる住民問合せ対応サービスの狙いは、新しい住民向け情報サービスの提供や行政職員の業務効率化を図りつつ、住民の生の声を把握し、行政サービスの改善・向上に活用することにある。そのためにも、元となるデータの標準化は不可欠である。



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図4 サービス利用イメージ
出所:三菱総合研究所作成

行政分野におけるAI活用可能性

住民からの問い合わせ対応にAIを活用するのは、比較的わかりやすいサービスの例だが、他にも行政分野では様々なサービスが考えられる。人の仕事を代替・効率化するだけでなく、将棋や囲碁でAIがプロに勝利したように、人にはできない仕事をこなしたり、人の何百倍・何千倍も速く処理したり、24時間365日休みなく働くことも可能である。

表2 行政分野におけるAI活用可能性の例

活用方法 AI活用可能性
問合せ対応 ・チャット、電話、窓口等での問合せ・相談対応を、AIやロボットで代替
翻訳 ・外国人居住者や観光客向けに自動翻訳サービスを提供
予測・予防 ・犯罪・火災・災害などの発生を予測し未然に防ぐ
・糖尿病重症化や生活保護受給の可能性がある人を予測し事前に支援
お薦め ・イベント、給付金、支援制度など、一人一人に応じたサービスをお薦め
政策立案 ・各種統計データや過去の実績、類似事例などをもとに政策立案を支援
法律等作成 ・法律や条例などの文案の作成やチェックを支援
議会議事録 ・音声認識による議会議事録の作成支援、解析
インフラ管理 ・道路や上下水道などの社会インフラの状況把握や補修計画作成を支援
教育 ・一人一人の状況に応じた学習メニューの作成・支援
医療 ・診断・治療法検討
交通 ・コミュニティバスやごみ収集車、除雪車などの自動走行

出所:三菱総合研究所作成

AIは職を奪うのか

一時期、AIが多くの職を奪うのではないかと話題になった。しかし人口が減少し、人手不足になる我が国においては、AIにより行政職員一人一人の能力をパワーアップして対応していく必要がある。紙で仕事をしていた時代に比べて、コンピュータやインターネットの普及により仕事が大幅に効率化したのと同様に、AIも生産効率を飛躍的に高める切り札のひとつとなる。 電子政府先進国のエストニアでは、コンピュータができることは人にさせてはいけないというルールがあるという。今後はAIができることは出来る限りAIに任せ、人は人でしかできないことに重点的に時間を投入することになるのではないだろうか。銀行の窓口業務がATM、さらにはモバイルバンキングに進化したように、行政分野においても同様の進化・変化が起きるものと思われる。そのためには、AIを動かすための大量のデータをいかに整備・活用可能にするかが鍵となる。



*1 三菱総研プレスリリース
http://www.mri.co.jp/news/press/public_office/022008.html

*2 https://www.asukoepartners.co.jp/

*3 http://www.inago.com/

*4 https://www.asukoepartners.co.jp/universalmenu/

*5 http://www.vled.or.jp/column/809f7a8da0336f42875b6eb37451209112499e4b.pdf

*6 http://www.vled.or.jp/column/2efa313744b5722a057263988f6231f88576ce6c.pdf

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